アンスウィ(Ansouis)とプロヴァンスの春

Bonjour 皆さん!

いよいよ帰国が近づいてきました。この時期、寂しいような嬉しいようなアンビバレントな気持ちになるのは毎度のこと。本場のパンやチーズをドカ食いできなくなる寂しさと、美味しいお米を早く食べたいという欲望が混在し、葛藤しております。

とはいえ、放っておいても数日後には日出ずる国の地を踏むことになりますので、とりあえず日本は忘れてプロヴァンスを懐かしむことに集中しましょう。

今回はかなりゆとりのあるスケジュールで買い付けを行いましたので、いつにも増して充実したプロヴァンス巡りをすることができました。

巡った村や町を全てご紹介することはできそうにありませんので、大好きなリュベロン地方から一つだけご紹介することにします。
※リュベロン地方って何?という方は、「ルールマラン(Lourmarin)のご紹介」をご覧になってみてください。

当ブログで最後にご紹介したリュベロンのコミューン(フランスにおける地方自治体の最小単位)はかなり癖のあるラコスト(Lacoste)でした。ごつごつした石が目立つ武骨な佇まいや、サド侯爵が住んだというおどろおどろしい歴史。ラコストは人によって好き嫌いが分かれそうな村です。

そこで今回のリュベロンご紹介は多くの方に喜んでもらえるコミューンという基準でどの村をご紹介するか検討しました。

その結果、白羽の矢が立ったのはアンスウィ(Ansouis)。「フランスの最も美しい村」に協会設立当初(1982年)から登録されており、内外の観光客に大変人気のある村です。

行きつけの村ルールマランを訪れる際は、よほど忙しくない限りアンスウィとキュキュロン(Cucuron)まで足を延ばします。いずれも一時間以内で村を歩きつくせるスモールサイズで、絵葉書の中から飛び出てきたような美しい村。本日ご紹介するのはアンスウィですが、機会があればいずれキュキュロン訪問記もアップいたします。

ルールマランから車で南東に15分ほど走ればもうそこはアンスウィ。村の周りに一面ブドウ畑が広がっており、近隣に数多くのワイナリーがあります。この地域で作られるワインのAOCは”Luberon”。1988年に昇格した新興AOCですが、最近は日本でもよく見かけますね。

論より証拠、それではアンスウィを見てみましょう。フランスの最も美しい村に選ばれるだけあって、フォトジェニックなポイントが満ち溢れています。

プロヴァンス・リュベロン地方の村Ansouisにある建物。ブルーのヴォレと美しいオレンジ色の花が壁を飾っている。
プロヴァンスの町Ansouisの高台に建つ石造りの家。
アンスウィ(Ansouis)村に咲くオレンジ色のモッコウバラと石造りの家。

アンスウィと言えば古いお城(Château d’Ansouis)と教会(Église Saint-Martin)が有名です。 この2大重鎮はのちほどご紹介するとして、まずは村のシンボルともいえる鐘楼をお見せしましょう。

プロヴァンスの村アンスウィの町の中心部にそびえたつ鐘楼。壁には大きな時計が設置されており、一番上に鐘が乗っている。

素材販売サイトなどでこの鐘楼の写真が「アンスウィの教会」というタイトルで提供されているのを見かけることがよくありますが、これは誤り。16世末もしくは17世紀頭に旧市庁舎(hôtel de ville)の上に建造された鐘楼です。

この鐘楼はなかなかの曲者で、もう一つ誤情報が流布されています。アンスウィには鐘楼が二つある、というものです。

次の写真をご覧ください。

アンスウィの鐘楼の裏側。表側と形が異なり、円柱状。

鐘の部分(campanile)は先ほど見た鐘楼とそっくりですが、時計が設置されている塔の部分(beffroi)が全く異なります。こんな小さな村に鐘楼が二つあるのかな?

実は同じ鐘楼の表と裏。

リュベロン地方の村アンスウィの鐘楼を斜めから見たところ。

この写真の方が鐘楼の構造を把握しやすいかもしれません。一つ前の写真は円柱状の裏面を斜め下側から見ているため、木や建物が邪魔をして正面の台形部分が見えないのです。

多くの方が「アンスウィには鐘楼が二つある」と勘違いしてしまうのもやむを得ないかと。。。

ということで、鐘楼にまつわる誤情報を二つお届けしました。どうでもいいですかね?(汗)

それでは村の頂上に建っている本チャンの教会、”Église Saint-Martin”に行ってみましょう。小さな村ですので、なんとなく上を目指して登って行けばすぐにたどり着きます。

プロヴァンスの町アンスウィ(Ansouis)の教会、Église Saint-Martin。

半円状に広がる入口前の階段が印象的。シンプルで窓の少ない外壁も教会らしくありません。でもこの質素な外見に騙されないように。入口を一歩入ると、小さいながらもそこに美しい別世界が広がっています。アンスウィを訪れたら必ず教会の中に入りましょう。

リュベロン地方の村アンスウィ(Ansouis)の教会Église Saint-Martinの内部。美しい絵画やマリア像が飾られている。
リュベロン地方の村アンスウィ(Ansouis)の教会Église Saint-Martinに飾られている絵画。

一つ目は見ての通りマリア様、二つ目は後ほどお伝えするSabran家の夫婦、Elzéar とDelphineの肖像画です。

大きな窓が無いため、多くのカトリック教会で見かける凝ったステンドグラスはありません。その代わりといっては何ですが、素晴らしいシャンデリアが目を楽しませてくれます。

アンスウィ村のEglise Saint Martin教会内部。美しいシャンデリアが二つぶら下がっている。

この美しい姿形!窓から差し込む光がクリスタルに反射し、ほの暗い教会の中に浮かび上がる様は幻想的です。

教会を出て、アンスウィのもう一方の重鎮であるお城Chateau d’ansouisに行きましょう。徒歩2分です。

アンスウィ(Ansouis)のお城Chateau d'Ansouis。
プロヴァンスの村アンスウィ(Ansouis)のお城、Château d'Ansouis。

まさに中世のお城といった佇まい。いかにもなライオンの紋章が長い歴史のあるお城を引き立てています。

お城は村を守る要塞として10世紀に建てらたものです。当初はForcalquier家が所有していましたが、その後Sabran家の手に。城壁に刻まれたライオンの紋章はSabran家の家紋です。

8世紀にもわたりお城を所有していたSabran家ですが、21世紀に入りお城を手放すことになりました。2007年に競売に出され、2008年に現オーナーが落札。

Sabran家がお城を競売に出さざるを得なかった経緯や、ピエール・カルダンが入札しながらも入手できなかった事件?など、この競売にはなかなか興味深い背景があります。ご興味のある方は”vente du château d’Ansouis”で検索してみてください(要仏語力)。

そういえばピエール・カルダンがラコストのお城を入手したのは2001年。アンスウィ城の購入に失敗したためやむなくラコストのお城を買ったという流れでは無いですね。一瞬そんなストーリーが頭をよぎりました。

4月から10月までの期間はお城の中に入って見学をすることができます(有料)。曜日や時間は時期によって異なりますので、必ず事前にお問い合わせください。また、予約ベースで現オーナーに案内してもらうこともできるようです。

駆け足ですが、2大重鎮をざっくりご紹介しました。これでアンスウィ村を見尽くしたかというと、そうではありません。この村にはもう一つ有名スポットがあるのです。

ミシュラン一つ星のレストラン、”La Closerie“。

こんな田舎の小さな村に星付きレストラン?ど驚かれるかもしれませんが、フランスでは風光明媚な田舎の村や町にグラン・シェフが店を出すのは良くあること。地場の新鮮な素材をふんだんに使った料理を提供するスタイルが定着しています。

星付きレストランなんて敷居が高い!と言わないでくださいね。お昼でしたら「前菜+メイン+デザート」の”Clin d’Oeil”(ウィンクという意味)というコースを40ユーロ弱でいただくことができます。

私のコースをお見せしましょう。

レストラン"La Closerie"のメインディッシュ、子羊のポワレ。
レストラン"La Closerie"のランチデザート。

値段が値段なのでトリュフやフォアグラなどの高級食材は使われていませんが、味もプレゼンテーションも超一流。

ホールでは気さくで話しやすいマダムも接客をしており、アットホームな雰囲気が緊張感を和らげてくれます。とても日本びいきの方で、この夏は盆栽の勉強がてら日本を旅行するのだと嬉しそうに話してくれました。

ほどよい熟成香のするグラスワインもなかなかの美味。雑談ついでにどのドメーヌのものかマダムに尋ねてみたところ、その正体は車で数分の場所に醸造所のある”Chateau Turcan“。ワインも地産地消です。もちろん帰りに立ち寄って今晩の一本を買って帰りましたよ。

グラスワインや食後のコーヒーは別料金ですので、お会計は夫婦二人で100ユーロ超え。「ちょっとランチ」にしてはお高めですが、それだけの価値は十分にあります。

以上、アンスウィのご紹介でした。教会、お城、”La Closerie”の3つでアンスウィを堪能しつくすことができます。リュベロン地域を旅行されることがありましたらぜひ立ち寄ってみてください。まさにプロヴァンス、まさにリュベロンの世界があなたを待っています。

最後に何枚か他の村で撮影した春のプロヴァンスをお届けして終わりましょう。

プロヴァンスの春の風景。黄色いモッコウバラと白い石の家。
プロヴァンスの春の風景。ヴォレのある南仏の建物前に咲く藤の花。
シンプルで質素なプロヴァンスの一般宅。黄色の花が咲いており、ガラスドアにはレースのカーテンがかかっている。
プロヴァンスの春の風景。緑の葉がかかるアーチの向こうに紫色の花咲く木が見える。

それではまた次シーズンでお会いしましょう、à la prochaine !

Raphaël

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